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 『日本橋』 青空文庫

「手向の水だい。」
 そこに絶望の声を放つと、二条ばかり、筒先を格子に向けた。
 どどどッと鳴る音と共に、軒の瓦斯は、人魂のごとく屋根へ飛ぶ。格子が前へどんと倒れる。地獄の口の開いた中から、水と炎の渦巻を浴びて、黒煙を空脛に踏んで火の粉を泳いで、背には清葉の継しい母を、胸には捨てた(坊や。)の我児を、大肌脱の胴中へ、お孝が……葛木に人形を包んで投げたを拾って持った、緋の長襦袢を縄からげにぐい、と結んで、

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