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 『婦系図』 青空文庫

「厭だわ、そんな事よりか、私、来年卒業すると、もうあんな学校や教頭なんか用は無いんだから、そうすると、主税さんの許《とこ》へ、毎日朝から行って、教頭なんかに見せつけてやるのにねえ。口惜《くや》しいわ、攫徒《すり》の仲間だの、巾着切の同類だのって、貴郎《あなた》の事をそう云うのよ。そして、口を利いちゃ不可《いけな》いって、学校の名誉に障るって云うのよ。可《よ》うござんす、帰途《かえり》に直ぐに、早瀬さんへ行っていッつけてやるって、言おうかと思ったけれど、行状点を減《ひ》かれるから。そうすると、お友達に負《まけ》るから、見っともないから、黙っていたけれど、私、泣いたの。主税さん。卒業したら、その日から、(私も掏摸かい、見て頂戴。)と、貴下の二階に居て讐《かたき》を取ってやりたかったに、残念だわねえ。」
 と擦寄って、
「地方《いなか》へ行かない工夫はないの?」と忘れたように、肩に凭《もた》れて、胸へ縋ったお妙の手を、上へ頂くがごとくに取って、主税は思わず、唇を指環《ゆびわ》に接《つ》けた。

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