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 『古狢』 青空文庫

「湯治だなんのって、そんな怪我ではないのです。療治は疾《と》うに済んだんですが、何しろ大変な火傷《やけど》でしょう。ずッと親もとへ引込んでいたんですが、片親です、おふくろばかり――外へも出ません。私たちが行って逢う時も、目だけは無事だったそうですけれども、すみの目金をかけて、姉《ねえ》さんかぶりをして、口にはマスクを掛けて、御経を習っていました。お客から、つけ届けはちゃんとありますが、一度来るといって、一年たち三年たち、……もっとも、沸湯《にえゆ》を浴びた、その時、(――男を一人助けて下さい。……見継ぎは、一生する。)――両手をついて、言ったんですって。
 お藻代さんは、ただ一夜《ひとよ》の情《なさけ》で、んだつもりで、地獄の釜で頷《うなず》いたんですね。ですから、客の方で約束は違えないんですが、一生飼殺し、といった様子でしょう。

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