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 『婦系図』 青空文庫

 さあ、飲めってえ、と、三人で遣りかけましたが、景気づいたから手明きの挽子どもを在りったけ呼《よん》で来た。薄暗い台所《だいどこ》を覗く奴あ、音羽から来る八百屋だって。こっちへ上れ。豆腐イもお馴染だろう。彼奴《あいつ》背負引《しょび》け。やあ、酒屋の小僧か、き様喇叭節を唄え。面白え、となった処へ、近所の挨拶を済《すま》して、帰《けえ》って来た、お源坊がお前さん、一枚《いちめえ》着換えて、お化粧《つくり》をしていたろうじゃありませんか。蚤取眼《のみとりまなこ》で小切《こぎれ》を探して、さっさと出てでも行く事か。御奉公のおなごりに、皆さんお酌、と来たから、難有《ありがて》え、大日如来、己《おら》が車に乗せてやる、いや、私《わっち》が、と戦だね。
 戦と云やあ、音羽の八百屋は講釈の真似を遣った、親方が浪花節だ。
 ああ、これがお世帯をお持ちなさいますお祝いだったら、とお源坊が涙ぐんだしおらしさに。お前《め》さん、有象無象《うぞうむぞう》が声を納めて、しんみりとしたろうじゃねえか。戦だね。泣くやら、はははははは、笑うやら、はははは。」

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