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『婦系図』 青空文庫
誰の癪《しゃく》に障るのも同一《おんなじ》だ、と見えて、可笑《おかし》ゅうがしたぜ。車屋の挽子がね、お前《め》さん、え、え、ええッて、人の悪いッたら、聾《つんぼ》の真似をして、痘痕の極印を打った、其奴《そいつ》の鼻頭《はなづら》へ横のめりに耳を突《つっ》かけたと思いねえ。奴もむか腹が立った、と見えて、空いた家か、と喚《わめ》いたから、私《わっし》ア階子段《はしごだん》の下に、蔦ちゃんが香《におい》を隠して置いたらしい白粉入《おしろいいれ》を引出しながら、空家だい! と怒鳴った。吃驚《びっくり》しやがって、早瀬は、と聞くから、夜遁げをしたよ、と威《おど》かすと、へへへ旦那、」
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