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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 四辺《あたり》静になりしかば、潜《ひそか》かに頭を擡ぐる処を、老婆お録に見咎められぬ。声立てさせじと飛蒐《とびかゝ》りて、お録の咽喉を絞め上げ/\、老婆が呼吸《いき》も絶々に手を合して拝むを見澄まし、さらば生命《いのち》を許さむあひだ、お藤を閉込め置く処へ、案内せよ、と前《さき》に立たせ、例の人形室に赴きて、其仕懸の巧みなるに舌を巻きて驚歎せり。斯くて彼の密室より、お藤を助け出しつゝ、かたの如く老婆を縛りて又雑具部屋へ引取りしを、知る者絶えて無かりけり。其より泰助は庭の空井戸の中にお藤を忍ばて、再び雑具部屋へ引返して旧《もと》の如く死を粧ひ、身動きもせで居たりしかば、二三度八蔵が見廻りしも全く死したる者と信じて、斯くとは思ひ懸けざりき。
 とかうするうち、高田は殺され悪僕二人は酒を飲みに出行きたれば、時分は好しと泰助は忍びやかに身支度するうち、二階には下枝の悲鳴頻なり。驚破《すは》やと起つて行き見れば、此時しも得三が犠牲《いけにへ》を手玉に取りて、活《いき》み殺しみなぶり居れる処なりし。

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