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 『春昼後刻』 泉鏡花を読む

 私はずた/\に切られるやうで、胸を掻きむしられるやうで、そしてそれが痛くも痒くもなく、日当りへ桃の花が、はら/\とこぼれるやうで、長閑で、麗で、しくつて、其れで居て寂しくつて、雲のない空が頼りのないやうで、緑の野が砂原のやうで、前世の事のやうで、目の前の事のやうで、心の内が言ひたくツて、焦ツたくツて、口惜くツて、いら/\して、じり/\して、其くせぼツとして、うつとり地の底へ引込まれると申しますより、空へ抱き上げられる塩梅の、何んとも言へない心持がして、それで寝ましたんですが、貴下、」

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