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 『婦系図』 青空文庫

 こなたの卓子に、我が同胞のしかく巧みに外国語を操るのを、嬉しそうに、且つ頼母《たのも》しそうに、熟《じっ》と見ながら、時々思出したように、隣の椅子の上に愛らしく乗《のっ》かかった、かすりで揃の、袷と筒袖の羽織を着せた、四ツばかりの男の児に、極めて上手な、肉叉《フォーク》と小刀《ナイフ》の扱い振《ぶり》で、肉《チキン》を切って皿へ取分けてやる、盛装した貴婦人があった。
 見渡す青葉、今日しとしと、窓の緑に降りかかる雨の中を、雲は鷺《しらさぎ》の飛ぶごとく、ちらちらと来ては山の腹を後《しりえ》に走る。
 函嶺《はこね》を絞る点滴《したたり》に、自然《おのずから》浴《ゆあみ》した貴婦人の膚は、滑かに玉を刻んだように見えた。

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