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 『婦系図』 青空文庫

 真白なリボンに、黒髪の艶は、金蒔絵《きんまきえ》の櫛の光を沈めて、いよいよ漆のごとく、藤紫のぼかしに牡丹《ぼたん》の花、蕊《しべ》に金入の半襟、栗梅の紋お召の袷、薄色の褄を襲《かさ》ねて、幽《かす》かにの入った黒地友染の下襲《したがさ》ね、折からの雨に涼しく見える、柳の腰を、十三の糸で結んだかと黒繻子の丸帯に金泥でするすると引いた琴の絃《いと》、添えた模様の琴柱《ことじ》の一枚《ひとつ》が、ふっくりと乳房を包んだ胸を圧えて、時計の金鎖を留めている。羽織は薄い小豆色の縮緬に……ちょいと分りかねたが……五ツ紋、小刀持つ手の動くに連れて、指環《ゆびわ》の玉の、幾つか連ってキラキラ人の眼《まなこ》を射るのは、水晶の珠数を爪繰《つまぐ》るに似て、非ず、浮世は今を盛《さかり》の色。艶麗《あでやか》な女俳優《おんなやくしゃ》が、子役を連れているような。年齢《とし》は、されば、その児の母親とすれば、少くとも四五であるが、姉とすれば、九でも二十《はたち》でも差支えはない。

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