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『五大力』 従吾所好
時に、暮方の軒が沈んで、瓦は浮上つたやうに見えたのに、家並の屋根はずツぷりと重く成つた……雨はすぐに留みさうもなかつたのである。
傘を持つて追つて来た絵師の使を、拗気にはぐらかした小弥太は、能楽界に名だたる宿老、新海孫六兵衛の甥に当る。
其処に託かつた一包は、名門の三世五代、家に伝はる古今の神品。伝へ聞く、都より便船して下しし時、船とともに湖水に沈んで年経たのが、おのづから竹生島の御堂の縁〈きは〉に浮出でつとて、(龍神がへし)と世に聞えたのを、宿縁によつて相伝した、銘を(浮草小町)と云ふ其美女の、宛然〈さながら〉生首の如き、なきざうの面である。
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