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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 得右衛門は得三の名を呼びて室外におびき出し、泰助は難無く室内に入りて潜むを得たり。然る後二人計略合期《がふご》して泰助をして奇功を奏せしめたる、此処《このところ》得右衛門大出来といふべし。被《かづき》を被替《かけか》へて虚兵を張り、人形を身代《みがはり》にして下枝を隠し、二度《ふたゝび》毒刃を外して三度目に、得三が親仁を追懸け出でて、老婆に出逢ひ、一條の物語に少しく隙《ひま》の取れたるにぞ、いで此時と泰助は、下枝を抱きて易々と庭口に立出づれば、得右衛門待受けて、彼はお藤を背に荷ひ、此は下枝を肩に懸けて、滑川《なめりがは》にぞ引揚げける。
 時正に東天
 暗号一発捕吏を整へ、倉瀬泰助疾駆して雪の下に到り見れば、老婆録は得三が乱心の手に屠られて、血に染みて死し居たり。更に進んで二階に上れば、得三は自殺して、人形の前に伏し居たり。

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