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『日本橋』 青空文庫
と清葉は半ば独言に云うと、色傘を上へ取って身繕いをする状して、も一度あとを見送りそうな気構えに、さらさらと二返、褄を返して、火の番の羽目を出たが、入交って、前へ通そうとするお千世と、向を変えてまた立留まった。時も過ぎたり、いかにしても、今はその影も見えないことを心付いたらしいのである。
「では、あの、姉さんはお顔を見たことがあるんですか。」
「私は、ここで遠いもの。顔なんてどうして?……お前さんは見たんじゃない? もっとも笠を被っていなすったけれどもさ。」
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