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 『婦系図』 青空文庫

「いや、これは。」主税は狼狽《うろた》えて、くるりと廻って、そそくさ扉《と》を開いて、隣の休憩室の唾壺《だこ》へ突込んで、喫《の》みさしを揉消《もみけ》して、太《いた》く恐縮の体で引返すと、そのボオイを手許《てもと》へ呼んで、夫人は莞爾々々《にこにこ》笑いながら低声《こごえ》で何か命じている。ただしその笑い方は、他人の失策を嘲けったのではなく、親類の不出来《ふでか》しを面がったように見える。

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