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『古狢』 青空文庫
堤防《どて》を離れた、電信のはりがねの上の、あの辺……崖の中途の椎《しい》の枝に、飛上った黒髪が――根をくるくると巻いて、倒《さかさ》に真黒《まっくろ》な小蓑《こみの》を掛けたようになって、それでも、優しい人ですから、すんなりと朝露に濡れていました。それでいて毛筋をつたわって、落ちる雫《しずく》が下へ溜《たま》って、血だったそうです。」
「寒くなった。……出ようじゃないか。――ああ西日が当ると思ったら、向うの蕃椒《とうがらし》か。慌てている。が雨は霽《あが》った。」
提灯なしに――二人は、歩行《ある》き出した。お町の顔の利くことは、いつの間にか、蓮根の中へ寄掛けて、傘が二本立掛けてあるのを振返って見たので知れる。
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