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『婦系図』 青空文庫
聞けば、夫人は一週間ばかり以前から上京して、南町の桐楊塾に逗留していたとの事。桜も過ぎたり、菖蒲《あやめ》の節句というでもなし、遊びではなかったので。用は、この小児《こども》の二年《ふたつ》姉が、眼病――むしろ目が見えぬというほどの容態で、随分実家《さと》の医院においても、治療に詮議《せんぎ》を尽したが、その効《かい》なく、一生の不幸になりそうな。断念《あきらめ》のために、折から夫理学士は、公用で九州地方へ旅行中。あたかも母親は、兄の英吉の事に就いて、牛込に行っている、かれこれ便宜だから、大学の眼科で診断を受けさせる為に出向いた、今日がその帰途《かえり》だと云う。
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