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『古狢』 青空文庫
提灯なしに――二人は、歩行《ある》き出した。お町の顔の利くことは、いつの間にか、蓮根の中へ寄掛けて、傘が二本立掛けてあるのを振返って見たので知れる。
「……あすこに人が一人立っているね、縁台を少し離れて、手摺《てすり》に寄掛《よりかか》って。」
「ええ、どしゃ降りの時、気がつきましたわ。私、おじさんの影法師かと思ったわ。――まだ麦酒《ビイル》があったでしょう。あとで一口めしあがるなぞは、洒落《しゃれ》てるわね。」
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