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 『歌行燈』 従吾所好

 女中も思はず噴飯〈ふきだ〉して、
「あれ、あなたは弥次郎兵衛様でございますな。」
「其の通り。……此の度の参宮には、都合あつて五二館と云ふのへ泊つたが、内宮様へ参る途中、古市の旅篭屋、藤屋の前を通つた時は、前度いかい世話に成つた気で、薄暗いまで奥深いあの店頭に、真鍮の獅噛〈しかみ〉火鉢がぴか/\とあるのを見て、略儀ながら、車の上から、帽子を脱いでお辞儀をして来た。が、町が狭いで、向う側の茶店の新姐に、此の小兀〈すこはげ〉を見せるのが辛かつたよ。」

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