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 『婦系図』 青空文庫

 もとよりその女の児に取って、実家《さと》の祖父《おじい》さんは、当時の蘭医(昔取った杵《きね》づかですわ、と軽い口をその時交えて、)であるし、病院の院長は、義理の伯父さんだし、注意を等閑にしようわけはないので、はじめにも二月三月、しかるべき東京の専門医にもかかったけれども、どうしても治らないから、三年前にすでに思切って、盲目《めくら》の娘、(可哀相だわねえ、と客観《かっかん》的の口吻《くちぶり》だったが、)今更大学へ行ったって、所詮効《かい》のない事は知れ切っているけれど、……要するにそれは口実にしたんですわ、とちょいと堅い語《ことば》が交った。
 夫がまた、随分自分には我儘《わがまま》をさせるのに、東京へ出すのは、なぜか虫が嫌うかして許さないから、是非行きたいと喧嘩も出来ず。ざっと二年越、上野の花も隅田の月も見ないでいると、京都へ染めに遣った羽織の色も、何だか、艶がなくって、我ながらくすんで見えるのが情ない。

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