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『婦系図』 青空文庫
この富士山だって、東京の人がまるっきり知らないと、こんなに名高くはなりますまい。自分は田舎で埋木《うもれぎ》のような心地《こころもち》で心細くってならない処。夫が旅行で多日《しばらく》留守、この時こそと思っても、あとを預っている主婦《あるじ》ならなおの事、実家《さと》の手前も、旅をかけては出憎いから、そこで、盲目《めくら》の娘をかこつけに、籠を抜けた。親鳥も、とりめにでもならなければ可い、小児の罰が当りましょう、と言って、夫人は快活に吻々《ほほ》と笑う。
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