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 『婦系図』 青空文庫

 県庁、警察署、師範、中学、新聞社、丸の内をさして朝ごとに出勤するその道その道の紳士の、最も遅刻する人物ももう出払って、――初夜の九時十時のように、朝の九時十時頃も、一時《ひとしきり》はの所有《もの》に寂寞《ひっそり》する、草深町《くさぶかまち》は静岡の侍小路《さむらいこうじ》を、カラカラと挽《ひ》いて通る、一台、艶やかな幌に、夜上りの澄渡った富士を透かして、燃立つばかりの鳥毛の蹴込《けこ》み、友染の背《せなか》当てした、高台細骨の車があった。

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