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 『二、三羽――十二、三羽』 青空文庫

 あの、仔雀が、チイチイと、ありッたけ嘴を赤く開けて、クリスマスに貰ったマントのように小羽を動かし、胸毛をふよふよと揺がせて、こう仰向いて強請《ねだ》ると、あいよ、と言った顔色《かおつき》で、チチッ、チチッと幾度もお飯粒《まんまつぶ》を嘴から含めて遣る。……食べても強請《ねだ》る。ふくめつつ、後《あと》ねだりをするのを機掛《きっかけ》に、一粒銜えて、お母さんは塀の上――(椿の枝下で茲《ここ》にお飯《まんま》が置いてある)――其処から、裏露地を切って、向うの瓦屋根へフッと飛ぶ。とあとから仔雀がふわりと縋る。これで、羽を馴らすらしい。また一組は、おなじく餌を含んで、親雀が、狭い庭を、手水鉢の高さぐらいに舞上ると、その胸のあたりへ附着《くッつ》くように仔雀が飛上る。尾を地へ着けないで、舞いつつ、飛びつつ、庭中を翔廻りなどもする、やっぱり羽を馴らすらしい。この舞踏が一斉《いっとき》に三組《みくみ》も四組《よくみ》もはじまる事がある。卯の花を掻乱し、萩の花を散らして狂う。……かわいいのに目がないから、春も秋も一所だが、晴の遊戯《あそび》だ。もう些と、綺麗な窓掛、絨毯を飾っても遣りたいが、庭が狭いから、羽とともに散りこぼれる風情の花は沢山ない。かえって羽について来るか、嘴から落すか、植えない菫の紫が一本《ひともと》咲いたり、蓼《たで》が穂をらめる。

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