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 『木の子説法』 青空文庫

 一昨年《おととし》の事である。この子は、母の乳が、肉と血を与えた。いま一樹の手に、ふっくりと、且つ健かに育っている。
 
 不思議に、一人だけ生命《いのち》を助かった女が、震災の、あの劫火《ごうか》に追われ追われ、縁あって、玄庵というのに助けられた。その妾《めかけ》であるか、娘分であるかはどうでもいい。老人だから、楽屋で急病が起って、踊の手練《てだれ》が、見真似の舞台を勤めたというので、よくおわかりになろうと思う。何、何、なぜ、それほどの容色《きりょう》で、酒場へ出なかった。とおっしゃるか? それは困る、どうも弱ったな。一樹でも分るまい。なくなった、みどり屋のお雪さんに……お聞き下さい。

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