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 『婦系図』 青空文庫

 男の児が先へ立って駈出して来る事だろう、と思いながら、主税が帽《ぼうし》を脱いで、雨《あま》あがりの松の傍《わき》を、緑の露に袖擦りながら、格子を潜《くぐ》って、土間へ入ると、天井には駕籠でも釣ってありそうな、昔ながらの大玄関。
 と見ると、正面に一段高い、式台、片隅の板戸を一枚開けて、後《うしろ》の縁から射す明りに、黒髪だけ際立ったが、向った土間の薄暗さ、衣《きぬ》の色朦朧と、俤き立姿、夫人は待兼ねた体に見える。

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