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 『五大力』 従吾所好

 亭主は土間の向うに、箱火鉢で大胡坐。ト其の火鉢の縁に、お召の袖ぐるみ、肱を包んで、袖口をひつたり合はせて、弱々として凭懸つて、胸を圧して、寂しく肩を落したなり、白々とある頸〈うなじ〉を斜ツかひに、横向の、はら/\と乱れた櫛巻のうしろ向。框に腰を掛けた、しなやかな裳〈もすそ〉は、正面に此方へ見せたが、裏は曇つた黄昏の片褄を引上げた。雨を潜つて来たらしい、しな/\と、細く搦んだ緋縮緬、雪の素足に浅葱の緒、雪駄か知らず、ぐツちよりと濡れたのを片足、膝で組んで、爪先を上へ、軽〈かろ〉く重ねるやうにして居たのがあつた。
 其の髪は濃し、若からう。
 歯入を待つ……と見て取る目に、小弥太は、其の、それしやが猫板に突伏した時の、もの思はし気な、曲〈くね〉つた背筋、胸さきにも似ず、褄はづれ、捌いた裾の、心易くすら/\として、秋の水の流るゝ風情に、濡れた浅葱の其の端緒さへ目に着いたのに、眉の端俤さへ、俤は少しも見えず。

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