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 『古狢』 青空文庫

 それだと、あすこで一杯やりかねない男だが、もうちと入組んだ事がある。――鹿落を日暮方出て此地《ここ》へ来る夜汽車の中で、目の光る、陰気な若い人が真向《まむこう》に居てね。私と向い合うと、立掛けてあった鉄砲――あれは何とかいう猟銃さ――それを縦に取って、真鍮《しんちゅう》の蓋《ふた》を、コツコツ開けたり、はめたりする。長い髪の毛を一振振りながら、(猟師と見えますか。)ニヤリと笑って、(フフン、世を忍ぶ――仮装ですよ。)と云ってね。袋から、血だらけな頬《ほおじろ》を、(受取ってくれたまえ。)――そういって、今度は銃を横へ向けて撃鉄《うちがね》をガチンと掛けるんだ。(麁葉《そは》だが、いかがです。)――貰いものじゃあるが葉巻を出すと、目を見据えて、(贅沢《ぜいたく》なものをやりますな、僕は、主義として、そういうものは用いないです。)またそういって、撃鉄をカチッと行《や》る。

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