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 『婦系図』 青空文庫

 薄萌葱《うすもえぎ》の窓掛を、件の長椅子《ソオフア》と雨戸の間《あい》へ引掛《ひっか》けて、幕が明いたように、絞った裙《すそ》が靡いている。車で見た合歓《ねむ》の花は、あたかもこの庭の、黒塀の外になって、用水はその下を、門前の石橋続きに折曲って流るるので、惜いかな、庭はただ二本《ふたもと》三本《みもと》を植棄てた、長方形の空地に過ぎぬが、そのかわり富士は一目。
 地を坤軸《こんじく》から掘覆《ほりかえ》して、将棊倒《しょうぎだおし》に凭《よ》せかけたような、あらゆる峰を麓に抱《いだ》いて、折からの蒼空に、雪なす袖を飜《ひるがえ》して、軽くその薄の合歓の花に乗っていた。

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