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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 私は余り気の毒さに顔も上げられないで密つと盗むやうにして見ると、婦人は何事も別に気に懸けては居らぬ様子、其まゝ後へ跟いて出ようとする時、紫陽花の花の蔭からぬいと出た一名の親仁がある。
 瀬戸から廻つて来たらしい、草鞋を穿いたなりで、胴乱の根付を紐長にぶらりと提げ、銜煙管をしながら竝んで立停つた。
(和尚様おいでなさい。)

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