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『古狢』
青空文庫
「その向《むき》の方なら、大概私が顔見知りよ。……いいえ、盗賊《どろぼう》や風俗の方ばかりじゃありません。」
「いや、大きに――それじゃ違ったろう。……安心した。――時に……実は椎の樹を通ってもらおうと思ったが、お藻代さんの話のいまだ。今度にしようか。」
「ええ、どちらでも。……ですが、もうこの軒を一つ廻った塀外が、じきその椎の樹ですよ。棟に蔭がさすでしょう。路地の暗いのもそのせいですわ。」
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