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 『薬草取』 青空文庫

「それこそ夢のようだと、いうのだろうと思います。路《みち》すがら、そうやって、影のような障礙《しょうがい》に出遇って、今にも娘が血に染まって、私は取って殺さりょうと、幾度《いくたび》思ったか解《わか》りませんが、黄昏《たそがれ》と思う時、その美女ヶ原というのでしょう。凡《およそ》八町《ちょう》四方ばかりの間、扇の地紙《じがみ》のような形に、空にも下にも充満《いっぱい》の花です。
 そのまま二人で跪《ひざまず》いて、娘がするように手を合せておりました。月が出ると、余り容易《たやす》い。つい目の前の芍薬《しゃくやく》の花の中に花片《はなびら》の形が変って、真《まっか》なのが唯《ただ》一輪。

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