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 『国貞えがく』 青空文庫

 そこへ、祖母《としより》が帰って来たが、何んにも言わず、平吉に挨拶もせぬ先に、
 「さあ」と言って、本を出す。
 織次は飛んで獅子の座へ直った勢《いきおい》。上から新撰に飛付く、と突《つん》のめったようになって見た。黒表紙には綾があって、艶があって、真黒な胡蝶《ちょうちょう》の天鵝絨《びろうど》の羽のように美しく……一枚開くと、きらきらと字が光って、細流《せせらぎ》のように動いて、何がなしに、言いようのない強い薫が芬として、目と口に浸込んで、中に描いた器械の図などは、ずッしり鉄《くろがね》の楯のように洋燈《ランプ》の前に顕れ出でて、絵の硝子が燐《ばっ》と光った。

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