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 『春昼後刻』 泉鏡花を読む

「又此の橿原と云ふんですか、山の裾がすく/\出張つて、大きな怪物の土地の神が海の方へ向つて、天地に開いた口の、奥歯へ苗代田麦畠などを、引銜へた形に見えます。谷戸の方は、恁う見た処、何んの影もなく、春の日が行渡つて、些と曇があればそれが霞のやうな、長閑な景色で居ながら、何んだか厭な心持の処ですね。」
 女は身を震はして、何故か嬉しさうに、
「あゝ、貴下も其の(厭な心持)をおしやいましたよ。ぢや、もう私も其のお話をいたしても差支へございませんのね。」

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