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『高野聖』
泉鏡花を読む
岐阜では未だ蒼空が見えたけれども、後は名にし負ふ北国空、米原、長浜は薄曇、幽に日が射して、寒さが身に沁みると思つたが、柳ヶ瀬では雨、汽車の窓が暗くなるに従うて、白いものがちら/\交つて来た。
「雪ですよ。」
「然やうぢやな。」といつたばかりで別に気に留めず、仰いで空を見ようともしない、此時に限らず、賤ヶ岳が、といつて、古戦場を指した時も、琵琶湖の風景を語つた時も、旅僧は唯頷いたばかりである。
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