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 『海神別荘』 華・成田屋

公子  はははは、(笑う)貴女、敵のない国が、世界のどこにあるんですか。仇(あだ)は至る処に満ちている――ただ一人(いちにん)の娘を捧ぐ、・・・海の幸を賜われ――貴女の親は、既に貴女の仇なのではないか。ただその敵に勝てば可いのだ。私は、この強さ、力、威あるがために勝つ。閨)にただ二人ある時でも私はこれを脱ぐまいと思う。私の心は貴女を愛して、私の鎧は、敵から、仇から、世界から貴女を守護する。弱いもののために強いんです。毒竜の鱗は絡い、爪は抱き、角は枕してもいささかも貴女の身は傷けない。ともにこの鎧に包まるる内は、貴女は海の女王なんだ。放縦に大胆に、不羈、専横に、心のままにして差支えない。鱗に、爪に、角に、一糸掛けない身(はくしん)を抱(いだ)かれ包まれて、渡津海(わたつみ)の広さを散歩しても、あえて世に憚(はばか)る事はない。誰の目にも触れない。人は指(ゆびさし)をせん。時として見るものは、沖のその影を真珠の光と見る。指(ゆびさ)すものは、喜見城(きけんじょう)の幻景(まぼろし)に迷うのです。女の身として、優しいもの、媚あるもに、従うものに慕われて、それが何の本懐です。私は鱗をもって、角をもって、爪をもって愛するんだ。・・・鎧は脱ぐまい、と思う。(従容として椅子に戻る。)

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