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 『古狢』 青空文庫

 掃清めた広い土間に、惜《おし》いかな、火の気がなくて、ただ冷たい室《むろ》だった。妙に、日の静寂間《しじま》だったと見えて、人の影もない。窓の並んだ形が、椅子をかたづけた学校に似ていたが、一列に続いて、ざっと十台、曲尺《かねじゃく》に隅を取って、また五つばかり銅《あかがね》の角鍋が並んで、中に液体だけは湛《たた》えたのに、青桐《あおぎり》の葉が枯れつつっていた。月も十五に影を宿すであろう。出ようとすると、向うの端から、ちらちらと点《つ》いて、次第に竈《かまど》に火が廻った。電気か、瓦斯《がす》を使うのか、ほとんど五彩である。ぱッと燃えはじめた。

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