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 『春昼後刻』 泉鏡花を読む

「はあ、私が臥りまして、枕に髪をこすりつけて、悶えて、あせつて、焦れて、つく/\口惜しくつて、情なくつて、身がしびれるやうな、骨が溶けるやうな、心持で居た時でした。先刻の、あの雨の音、さあつと他愛なく軒へかゝつて通りましたのが、丁ど彼処あたりから降り出して来たやうに、寝て居て思はれたのでございます。
 あの停車場の囃子の音に、何時か気を取られて居て、それだからでせう。今でも停車場の人ごみの上へだけは、細い雨がかゝつて居るやうに思はれますもの。未だ何処にか雨気が残つて居りますなら、向うの霞の中でせうと思ひますよ。

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