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『春昼後刻』 泉鏡花を読む
あの停車場の囃子の音に、何時か気を取られて居て、それだからでせう。今でも停車場の人ごみの上へだけは、細い雨がかゝつて居るやうに思はれますもの。未だ何処にか雨気が残つて居りますなら、向うの霞の中でせうと思ひますよ。
と、其細い、幽な、空を通るかと思ふ雨の中に、図太い、底力のある、そして、さびのついた塩辛声を、腹の底から押出して、
(えゝ、えゝ、えゝ、伺ひます。お話はお馴染の東京世渡草、商人の仮声物真似。先づ神田辺の事でござりまして、えゝ、大家の店前にござります。夜のしら/\明けに、小僧さんが門口を掃いて居りますると、納豆、納豆――)
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