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 『日本橋』 青空文庫

「いいえ、滅相な、お世辞ではございませんが、貴女方に誉められます処を、亡くなった亭主に聞かしてやりとうございます。そういたしましたら、生きてるうち邪慳にしましたのをさぞ後悔することでございましょう。しかしまた未練が出て、化けてでも出ると大変でございますね。」
 お千世が襦袢の袖口で口を圧えて、一昨年の冬なくなったその亭主の、いささか訛のある仮声を使う。
「松蔵どんやあ。」

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