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『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径
実際魔所でなくとも、大崩壊《おおくずれ》の絶頂は薬研を俯向けに伏せたようで、跨《また》ぐと鐙のないばかり。馬の背に立つ巌、狭く鋭く、踵《くびす》から、爪先から、ずかり中窪に削った断崖《がけ》の、見下ろす麓の白浪に、揺落《ゆりおと》さるる思《おもい》がある。
さて一方は長者園の渚へは、浦の波が、静《しずか》に展《ひら》いて、忙《せわ》しくしかも長閑に、鶏の羽たたく音がするのに、唯切立《きった》ての巌一枚、一方は太平洋の大濤《おおなみ》が、牛の吼ゆるが如き声して、緩かにしかも凄じく、うう、おお、と呻って、三崎街道の外浜に大畝りを打つのである。
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