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『薬草取』 青空文庫
薫《かおり》の高い薬を噛んで口移しに含められて、膝に抱かれたから、一生懸命に緊乎《しっかり》縋《すが》り着くと、背中へ廻った手が空を撫《な》でるようで、娘は空蝉《うつせみ》の殻《から》かと見えて、唯《たっ》た二晩がほどに、糸のように瘠《や》せたです。
もうお目に懸《かか》られぬ、あの花染《はなぞめ》のお小袖《こそで》は記念《かたみ》に私に下さいまし。しかし義理がありますから、必ずこんな処《ところ》に隠家《かくれが》があると、町へ帰っても言うのではありません、と蒼白い顔して言い聞かす中《うち》に、駕籠《かご》が舁《か》かれて、うとうとと十四、五町《ちょう》。
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