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 『薬草取』 青空文庫

 もうお目に懸《かか》られぬ、あの花染《はなぞめ》のお小袖《こそで》は記念《かたみ》に私に下さいまし。しかし義理がありますから、必ずこんな処《ところ》に隠家《かくれが》があると、町へ帰っても言うのではありません、と蒼白い顔して言い聞かす中《うち》に、駕籠《かご》が舁《か》かれて、うとうとと十四、五町《ちょう》。
 奥様、此処《ここ》まで、と声がして、駕籠が下りると、一人手を取って私を外へ出しました。
 左右《ひだりみぎ》に土下座《どげざ》して、手を支《つ》いていた中に馬士《まご》もいた。一人が背中に私を負《おぶ》うと、娘は駕籠から出て見送ったが、顔に袖《そで》を当てて、長柄《ながえ》にはッと泣伏《なきふ》しました。それッきり。」

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