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 『海神別荘』 華・成田屋

公子  いや、住居(すまい)している。色彩は皆活きて動く。けれども、人は知らないのだ。人は見ないのだ。見ても見ない振(ふり)をしているんだから、決して人間の凡(すべ)てを貴いとは言わない、美(うつくし)いとは言わない。ただ陸(くが)は貴い。けれども我が海は、この水は、一畝(ひとうね)りの波を起して、その陸を浸す事が出来るんだ。ただ貴く、美(うつくし)いものは亡びない。・・・中にも貴方は美しい。だから、陸の一浦を亡ぼして、ここへ迎え取ったのです。亡ぼす力のあるものが、亡びないものを迎え入れて、且つ愛し且つ守護するのです。貴女は、喜ばねば不可い、嬉しがらなければならない、悲しんではなりません。
女房  貴女、おっしゃる通りでございます。途中でも私が、お喜ばしい、おめでたい儀と申しました。決してお歎きなさいます事はありません。
美女  いいえ、歎きはいたしません。悲しみはいたしません。ただ歎きますもの、悲しみますものに、私の、この容子を見せてやりたいと思うのです。

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