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 『婦系図』 青空文庫

 と嬉しそうに、勝誇った色が見えたが、歩行《ある》き出そうとして、その茅家をもう一目。
「しかし極《きまり》が悪かってよ。」
「何とも申しようはありません。当座の御礼のしるし迄に……」と先刻《さっき》拾って置いた菫色の手巾を出すと、黙って頷いたばかりで、取るような、取らぬような、歩行《ある》きながら肩が並ぶ。袖が擦合うたまま、夫人がまだ取られぬのを、離すと落ちるし、そうかと云って、手はかけているから……引込めもならず……提げていると……手巾が隔てになった袖が触れそうだったので、二人が斉《ひと》しく左右を見た。両側の伏屋《ふせや》の、ああ、どの軒にも怪しいお札の狗が……

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