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 『二、三羽――十二、三羽』 青空文庫

 すてきに物干が賑だから、密《そっ》と寄って、隅の本箱の横、二階裏の肘掛窓から、まぶしい目をぱちくりと遣って覗くと、柱からも、横木からも、頭の上の小廂からも、暖な影を湧かし、羽を光らして、一斉《いっとき》にパッと逃げた。――飛ぶのは早い、裏邸の大枇杷の樹までさしわたし五十間ばかりを瞬く間もない。――(この枇杷の樹が、馴染《なじみ》の一家族の塒《ねぐら》なので、前通りの五本ばかりの桜の樹(有島家)にも一群巣を食っているのであるが、その組は私の内へは来ないらしい、持場が違うと見える)――時に、女中がいけぞんざいに、取込む時引外《ひきはず》したままの掛棹が、斜違《はすか》いに落ちていた。硝子一重《ひとえ》すぐ鼻の前《さき》に、一羽可愛いのが真正面《まっしょうめん》に、ぼかんと留まって残っている。――どうかして、座敷へ飛込んで戸惑いするのを掴えると、掌《てのひら》で暴れるから、このくらい、しみじみと雀のを見た事はない。ふっくりとも、ほっかりとも、細い毛へ一つずつ日光を吸込んで、おお、お前さんは飴で出来ているのではないかい、と言いたいほど、とろんとして、目を眠っている。道理こそ、人の目と、その嘴と打撞《ぶつか》りそうなのに驚きもしない、と見るうちに、蹈えて留った小さな脚がひょいと片脚、幾度も下へ離れて辷りかかると、その時はビクリと居直る。……煩って動けないか、怪我をしていないかな。……

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