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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 泰助は目をしばたゝき、「薄命《ふしあはせ》な御方だ、御心配なさるな。請合つて屹度助けて進《あ》げます。と真実面《おもて》に顕るれば、病人は張詰めたる気も弛みて、がつくりと弱り行きしが、頻に袂を指さすにぞ、泰助は耳に口、「何です、え、何ぞあるのですか。「下枝の写真。「むゝ、其は此でせう。先刻《さつき》僕が取出しました。と彼《か》の写真を病人の眼前に翳《かざ》せば、熟々《つく/゛\》と打視《うちなが》め、「私と同じ様に、嘸《さぞ》今では憔れて、とほろりと涙を泛べつゝ、「此面影はありますまいよ。顔でも見たい、もう一度逢ひたい。と現心《うつゝごころ》にいひければ、察し遣りて泰助が、彼の心を激まさんと、「気を丈夫に持つて養生して、ね、翌朝《あした》まで眼を塞がずに僕が下枝を連れて来るのを御覧なさい。今夜中に助け出して、財産も他手《ひとで》に渡さないから、必ず御案じなさるな。と言語《ことば》を尽して慰むれば、頷くやうに眼を閉ぢぬ。

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