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 『婦系図』 青空文庫

 今来た郵便は、夫人の許へ、主人《あるじ》の島山理学士から、帰宅を知らせて来たのだろう……と何となくそういう気がしつつ――三四日日和が続いて、夜になってももう暑いから――長火鉢を避《よ》けた食卓の角の処に、さすがにまだ端然《きちん》と坐って、例の(菅女部屋。)で、主税は独酌にして、ビイル。
 塀の前を、用が流るるために、波打つばかり、窓掛に合歓《ねむ》の花の影こそ揺れ揺れ通え、差覗く人目は届かぬから、縁の雨戸は開けたままで、心置なく飲めるのを、あれだけの酒好《ずき》が、なぜか、夫人の居ない時は、硝子杯《コップ》へ注《つ》ける口も苦そうに、差置いて、どうやら鬱《ふさ》ぐらしい。

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