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 『薬草取』 青空文庫

 手に一条《ひとすじ》大身《おおみ》の槍《やり》を提《ひっさ》げて、背負《しょ》った女房が死骸でなくば、死人の山を築《きず》くはず、無理に手活《ていけ》の花にした、申訳《もうしわけ》の葬《とむらい》に、医王山の美女ヶ原、花の中に埋《うず》めて帰る。汝《うぬ》ら見送っても命がないぞと、近寄ったのを五、六人、蹴散らして、ぱっと退《ひ》く中を、衝《つ》と抜けると、岩を飛び、岩を飛び、岩を飛んで、やがて槍を杖《つ》いて岩角《いわかど》に隠れて、それなりけりというので、さてはと、それからは私がその娘に出逢う門出《かどで》だった誕生日に、鈴見《すずみ》の橋の上まで来ては、こちらを拝んで帰り帰りしたですが、母が亡《なく》なりました翌年から、東京へ修行に参って、国へ帰ったのは漸《やっ》と昨年。始終望んでいましたこの山へ、後《あと》を尋ねて上《のぼ》る事が、物に取紛《とりまぎ》れている中《うち》に、申訳《もうしわけ》もない飛んだ身勝手な。

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