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 『縁結び』 青空文庫

 その回向堂は、また庚申堂《こうしんどう》とも呼ぶが、別に庚申を祭ったのではない。さんぬる天保《てんぽう》庚申年に、山を開いて、共同墓地にした時に、居まわりに寺がないから、この御堂《みどう》を建立《こんりゅう》して、家々の位牌《いはい》を預ける事にした、そこで回向堂とも称《とな》うるので、この堂守ばかり、別に住職《じゅうしょく》の居室《いま》もなければ、山法師《やまぼうし》も宿らぬのである。
「また、東京へ行きますから、もう一度と思って来ました。」
 と早、離れてはいたが、謙造は傍《かたわら》なる、手向《たむけ》にあらぬ花の姿に、心置かるる風情《ふぜい》で云った。

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