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『婦系図』 青空文庫
どっぷり沈んで、遠くで雨戸を繰る響、台所《だいどこ》をぱたぱた二三度行交いする音を聞きながら、やがて洗い果ててまた浴びたが、湯の設計《こしらえ》は、この邸に似ず古びていた。
小灯《こともし》の朦々《もうもう》と包まれた湯気の中から、突然《いきなり》褌のなりで、下駄がけで出ると、颯と風の通る庇間に月が見えた。廂はずれに覗いただけで、影さす程にはあらねども、と見れば尊き光かな、裸身《はだみ》に颯と白銀《しろがね》を鎧《よろ》ったように二の腕あたり蒼《あお》ずんだ。
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