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 『婦系図』 青空文庫

 がたがた音がした台所も、遠くなるまで寂寞《ひっそり》して、耳馴れたれば今更めけど、戸外《おもて》は数《す》万の蛙《かわず》の声。蛙、蛙、蛙、蛙、蛙と書いた文字に、一ツ一ツ音があって、天地《あめつち》に響くがごとく、はた古戦場を記した文に、尽《ことごと》く調《しらべ》があって、章と句と斉《ひと》しく声を放って鳴くがごとく、何となく雲が出て、く移り行くに従うて、動揺《どよみ》を造って、国が暗くなる気勢《けはい》がする。

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