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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 右から左へ、僅に瞳を動かすさえ、杜若咲く八ツ橋と、月の武蔵野ほどに趣が激変して、浦には白帆の鴎が舞い、沖を黒煙の竜が奔る。
 これだけでも眩くばかりなるに、踏む足許は、岩のその剣の刃を渡るよう。取縋る松の枝の、を分けて、種々《いろいろ》の波の調べの懸るのも、人が縋れば根が揺れて、攀上った喘ぎも留まぬに、汗を冷《つめと》うする風が絶えぬ。

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